「第9惑星か?」のニュースに対するコメント  
井田 茂



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    一言でコメントとすると、「そんな(突拍子もない)アイデアが提案されるほど、太陽系外縁部の探索が様々な新しい謎を提起しながら急速に進展しているのだ」ということになると思います。

海王星軌道の外側の「太陽系外縁部」には冥王星だけだったのが、1992年以来続々と天体が発見され、その数は1000個を優に越えました。比較的円軌道に近い(惑星軌道よりは楕円に歪んでいるが)カイパーベルト天体群や、それらと彗星との中間的軌道の天体群(散乱円盤天体)が多数発見されました。散乱円盤の中には冥王星クラスの大きさのものも含まれ、また、セドナのような散乱円盤天体からはずれた天体も発見されています。

このように太陽系は、円軌道に近く独立した大きい8個の惑星たちによる内部太陽系 ( これが旧来の太陽系像)に加えて楕円軌道で交差しあった多数の小天体群による太陽系外縁部が組み合わさったものだというのが、新しい太陽系像です。冥王星は、「辺境の孤独な惑星」ではなく、新たに認識された太陽系外縁天体の総帥だというのがIAUの惑星の定義・冥王星問題だったわけです。しかし、この新太陽系像がメディア側にうまく伝わらず、当時の報道では、旧太陽系像のもとに「冥王星が惑星(=太陽系の仲間)からはざされる」という文脈で語られることが多かったと思います。その問題を受けて、日本学術会議では新太陽系像の普及のために「新太陽系図」というポスターを作成し、学校などに配布しました (http://www.nao.ac.jp/info/20060824/index.html)。

これらの太陽系外縁天体の軌道分布に発見されている数々の特徴は、太陽系の形成・進化の痕跡を示しています。例えば、海王星が形成後に7天文単位以上外側に移動し、冥王星を含めた多くのカイパーベルト天体が39〜40天文単位の軌道半径に掃き集められたことがわかりました。このアイデアが発表された当時は、斬新すぎて抵抗もあったのですが、あまりに見事に軌道分布を説明でき、移動物理メカニズムもわかってきたので、現在では標準モデルとなっています。しかし、分布の他の特徴は謎として残されています。

今回発表があった神戸大チームの論文は、その軌道分布の謎とそれに対する様々なモデルを簡潔に要約し、未知の惑星X(エックス)による摂動という従来からあるモデルを再検討したものです。従来のモデルの最大の欠点はカイパーベルト天体の軌道に影響するくらいの近さ、大きさの惑星が存在するならば、とっくに発見されているはずということです。この論文は、海王星が外に動いたように、惑星Xもカイパーベルト天体に影響を与えた後に外に動いて軌道面も傾いたと仮定すれば、未発見だということと矛盾しないと指摘しました。仮定された惑星Xの軌道変化は、現状の知識では実現が難しいと言わざるを得なく(著者たちも、単純に見積もるとそのような軌道変化の確率は1%くらいだと論文で示しています)、この論文の結果をもって惑星Xが存在すると思う専門家は現時点では少ないでしょう。しかし、急速に進展中の学問分野においては非常識が常識に転換することがよくあるので、広い視野であらゆる可能性を追求することは重要だと思います。

強調したいのは、今後の議論の結果、やっぱりそんなモデルは不可能で惑星Xの存在を示すものはないとなっても、それが急速に発展する太陽系外縁部の研究の魅力を損なうものではないということです。旧太陽系像のもとに「新しい惑星が存在するかどうか、それを期待するかどうか」という矮小化された議論に行ってしまって、またもや新太陽系像が伝わらないことを大いに危惧します (IAUの惑星の定義の3番目の条件を使うならば、多数の天体が交差しあっている外縁部には「惑星」はそもそも存在しないことになるし)。本質は、太陽系外縁部の探索が急速な発展をし、あらゆる可能性が検討されているということなのです。