ホット・ジュピターに進化しつつある系外惑星を発見


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    東工大、神戸大、東海大、国立天文台、サンフランシスコ州立大など からなる研究グループは、すばる望遠鏡とケック望遠鏡を用いた共同 観測(N2Kプロジェクト -- 注1)により、カシオペア座のHD17156と いう恒星の周りに系外惑星を発見しました。これは、すばる望遠鏡で 見つけた2つ目の系外惑星です。この惑星は軌道長半径が小さな割に 軌道が大きく楕円にゆがんでいて、ホット・ジュピターに進化しつつ ある惑星ではないかと考えられます。


本研究グループは、2004年から、すばる望遠鏡(以下、すばる)や ケック望遠鏡(以下、ケック)などを用いたドップラー観測(注2) により、約2000個の恒星を対象としたホット・ジュピター(短周期の 系外惑星)探索を行っています。その探索で今回、カシオペア座に あるHD17156という太陽に似た恒星の周りに木星質量の3倍ほどの惑星 を発見しました(注3)。

この恒星は、2005年冬のすばるでの3日間の観測の結果、大きな速度 変化を示し、惑星をもつであろうことが分かりました。しかし、 その後約1年間に渡ってすばるやケックで度々追観測が行われましたが、 なかなか軌道を決定することができませんでした。このような状況を 打破すべく、2006年12月に「インテンシブプログラム」(注4)による 10日間の連続観測をすばるで行い、非常に離心率の大きな楕円軌道を もつ惑星であることを突き止めました(図1)。離心率の大きな楕円 軌道では近星点付近で速度が短期間に急激に変化するため、この部分 を観測でとらえるのは難しいのですが、10日間の連続観測によって これをカバーできたことが軌道決定の決め手となりました。



(図1)すばるとケックで観測したHD17156の視線速度変化(横軸がユリウス日、 縦軸が視線速度変化(単位はメートル毎秒))。黒丸がケックでの観測点で、 赤丸がすばるインテンシブプログラムでの観測点。実線は軌道要素をもとに 計算した理論曲線。すばるの観測が、速度が減少から増加に急激に 転じる位相をきれいにカバーしていることが分かる。


今回見つかった惑星は、中心星の周りを周期約21日(軌道長半径約0.15 天文単位)で公転していますが、その軌道は非常に ゆがんだ楕円形(離心率0.67)をしています(図2) (注5)。このため、近星点では 中心星に約0.05天文単位の距離にまで近づきます(遠星点では約0.25 天文単位)。これほど中心星に接近する惑星は、中心星からの潮汐力 を受けて、近星点を保存したまま軌道が円軌道化すると考えられてい ます(図3)。つまり、この惑星はこれから軌道長 半径が0.05天文単位のホット・ジュピターに進化していくの ではないかと考えられます。 ホット・ジュピターの形成シナリオはいくつか提案されていますが、 今回の惑星は、楕円軌道惑星がホット・ジュピターへ進化するという 1つのシナリオの例と言えます。



(左 -- 図2)HD17156で見つかった惑星の軌道を真上から見た様子 (赤実線)。プラスは中心星の位置。黒の点線は太陽系の水星軌道を表す。 AUは天文単位(Astronomical Unit)で、太陽−地球間の距離を1とする 単位(1AU=約1億5000万キロメートル)。
(右 -- 図3)系外惑星の軌道長半径(横軸)と軌道離心率(縦軸)の関係。 黒丸がこれまでに見つかっている惑星、赤の星印が今回見つかったHD17156 の惑星。黒の点線より左側の領域では近星点距離が0.05天文単位以下となり、 中心星の潮汐力を強く受けて軌道が円軌道化するため、この領域で大きな 離心率をもつ惑星はほとんど存在しない。


すばるインテンシブプログラムでは、他にも惑星をもつ候補天体を多数 観測しました。近々この中からまた新たな惑星を発表できると思います。 どうぞご期待ください。

なお、東工大地球惑星科学専攻・井田研究室には、系外惑星の理論チーム がありますが、今後は観測チームも組織していきます。新しい系外惑星の 発見にチャレンジする大学院生を募集中です。詳しくは
http://www.geo.titech.ac.jp/epss/postgraduate/setumeikai/setumeikai.html
http://www.geo.titech.ac.jp/lab/ida/ida.html
などを御覧ください。

論文は米国天文学会誌 "Astrophysical Journal" に発表予定です(注6)。



リストマーク 注釈
   
  • (注1) N2Kプロジェクト とは、日本、アメリカ、チリの天文学者による系外惑星探索 プロジェクトで、すばる、ケック、マゼランなどの8メートル 以上の最大口径地上望遠鏡を使って、これまでは観測ができ なかった、新しい2000個の恒星 (Next 2000(2K))を観測して、 数十個以上のホット・ジュピターを視線速度のドップラー偏移 を使って発見しようとする計画です。本研究グループは、 2005年にすばる初の系外惑星を発見しています ( →超巨大コアをもつ灼熱惑星を発見)。
    <研究グループ>
    佐藤文衛(東工大グローバルエッジ研究院 特任助教) ※2007年3月まで国立天文台岡山天体物理観測所研究員
    井田茂(東工大理工学研究科地球惑星科学専攻 教授)
    豊田英里(神戸大理学研究科地球惑星科学専攻 博士課程3年)
    大宮正士(東海大理学研究科物理学専攻 博士課程1年)
    Debra Fischer(San Francisco State University)
    Greg Laughlin(University of California, Santa Cruz)
    Paul Butler(Carnegie Institute of Washington DC)
    Geoff Marcy(University of California, Berkeley)

  • (注2)惑星をもつ恒星は、惑星からの引力によって揺り 動かされ、地球からみた速度が周期的に変化します。この速度 変化は恒星からやってくる光にドップラー偏移をもたらし、光の 波長のずれとなって検出されます。この波長のずれを検出する ことによって系外惑星を見つけるのが「ドップラー法」と呼ばれ る手法です。現在知られている系外惑星のほとんどがこの方法 で見つかっています。

  • (注3)恒星 HD17156は スペクトル型G0Vの太陽型恒星で、質量は太陽の1.2倍、 実視等級は8.17等。
    惑星(HD17156 b)は 木星の3.08倍の質量。軌道は軌道長半径 0.15天文単位、軌道離心率 0.67の楕円軌道。

  • (注4)すばる望遠鏡が設けている観測形態の1つで、 重要な観測課題に対して通常より多くの観測日数を割り当てます。 本研究グループが行っている系外惑星探しは2006年にインテンシブ プログラムに採択され、前後期合わせて20日間の観測日数が割り当て られました。

  • (注5)このような楕円軌道をもつ惑星系の起源として 有力な説の1つが、複数の惑星による重力散乱です。この説 では、3つ以上の惑星が重力的に相互作用することによって それぞれの軌道が大きく乱された結果、1つは系の外に飛び出し、 残った2つのうちの1つは中心星の近くへ、もう1つは中心星 からかなり遠くへ飛ばされて、ともに離心率の大きな楕円 軌道をもって残ります。今回見つかった惑星が中心星の近く に飛ばされた1つだとすると、中心星から遠く離れた軌道 にもう1つ惑星があることになります。これをドップラー観測 で見つけるのは時間がかかるため困難ですが、将来直接撮像 などでその存在の是非を確かめることができるでしょう。

  • (注6)論文タイトル: "Five Intermediate-Period Planets from the N2K Sample"
    論文著者:Fischer, D.A.,...,Sato, B.,...,Ida, S., Toyota, E., Omiya, M.,...(計15名)
    論文掲載予定誌: Astrophysical Journal (プレプリント:http://arxiv.org/abs/0704.1191