第206回  
日時 平成11年11月24日(水)17:00より
場所 東京工業大学石川台2号館315号室(地球惑星科学教室会議室)
講 演 者: 折橋祐二(東京大学地震研究所)
講演題目: 西南日本外帯,中期中新世花こう岩類の成因:
スラブ溶融の可能性について
内容: 地球創世から現在に至る大陸形成・成長のメカニズムを理解するうえで花こう岩質マグマの成因論が重要な鍵を握っている.花こう岩質マグマは上部および下部地殻の再溶融によって形成するとの考えが一般的であるが,地殻物質を再溶融させる熱源の上
昇(例えば,玄武岩質マグマの貫入)が必要であり,島弧および大陸弧でのマグマ生成場は火山フロントもしくはそれよりも背弧側に想定される.しかしながら,西南日本外帯の中期中新世花こう岩類のように,明らかに火山フロントより前弧側でも花こう岩質マグマは形成されており,これらを地殻物質の再溶融のみで説明することは難しい.Maruyama et al. (1996) は花こう岩類の成因についてスラブ溶融の可能性を指摘したが,公表されている全岩分析のREEパターン(例えば,村上・増田,1984など)はDefant and Drummond (1990)が定義したアダカイト的な特徴を示さないことから,その可能性について否定的な意見が多い.しかしながら,花こう岩類の全岩化学組成が2次的要因(例えば,熱水変質やREEを高濃度に含む副成分鉱物の偏在)により,これらの分析値が本来のメルト組成を示していない可能性は十分に考えられる.
そこで今回,西南日本外帯,屋久島,足摺岬,尾鈴山,市房,大崩山地域に産する中期中新世花こう岩類中の高温型ジルコン(Pupin,1980) に着目し,東工大設置のレーザーアブレーションICP質量分析装置(VG PQΩ)を用いてジルコン結晶のREE分析を行った.本講演では,得られたジルコン結晶のREE濃度からジルコンと平衡可能なメルトのREE濃度を類推し(メルト/ジルコン間の分配係数はHinton and Upton,1991による),この結果から西南日本外帯の花こう岩類の成因がスラブ溶融である可能性について検討する予定である.