第209回  
日時 平成12年1 月12日(水)17:00より
場所 東京工業大学石川台2号館315号室(地球惑星科学教室会議室)
講 演 者: 滝澤慶之(理化学研究所X線極限解析装置研究開発チーム)
講演題目: 超伝導トンネル接合素子検出器による次世代のプラズマ圏・
磁気圏撮像観測
内容: これまで、地球プラズマ圏及び磁気圏は、人工衛星による「その場」の直接観測により研究が進められてきたが、現象の時間的変化と空間的変化を分離することは困難である。
近年、広大な地球周辺の宇宙区間環境を、ただちに概観・観測するための新たな計測技術として地球周辺の宇宙空間環境を満たすプラズマ(ヘリウムイオン、酸素イオン等)により共鳴散乱された太陽からの極端紫外光(以下、EUV)を利用した可視化・撮像の研究が進められている。
1998年、日本の火星探査機「のぞみ」により、HeIIによる地球プラズマ圏撮像に地球の外側から世界で初めて成功した。これからの10年間に、日本の「SELENE」をはじめ、アメリカの「IMAGE」などの衛星等による地球プラズマ圏、磁気圏の撮像が試みられる。
いずれも「のぞみ」の光学系と基本的に同じで、ノイズとなる他の共鳴散乱線を観測対象の光量を犠牲にし、多層膜反射鏡及び金属薄膜フィルターの組み合わせによって除去しようとしている。
EUV領域において高い分光能力と高い検出効率とを兼ね備えた検出器が皆無であることに起因する。このため、高感度の分光観測を実現するEUV2次元検出器の開発が強く求められている。
我々は、極低温で動作する超伝導トンネル接合素子(以下、STJ)を用いた分光検出素子の開発を行っている。STJの適用範囲は動作原理から、X線、EUV、紫外光、可視光、赤外光等、サブミリ波以上のエネルギーを持つ光子、荷電粒子一般、原子線や分子線、さらにフォノンなどが見込まれている。

従来のEUV観測用検出器はMCPで、近年では、EUV用の電荷結合素子(CCD)も開発されている。しかし、いずれも検出器単体では分光能力がなく、スペクトル情報を得るために分光器やバンドパスフィルターなどを用いる必要があり、システムとしての検出効率がきわめて悪い。これに対しSTJは、1個の光子が作るパルス状の信号から波長情報が直接得られるため、分光器や複雑なフィルタ光学系が必要なく、検出効率を損なうことなく分光観測が行える。理論的に与えられる波長分解能は、AI系のSTJでΔλ(FWHM)〜7Å@500Å(λ/Δλ〜80)であり、主要観測ラインのHEII (304Å)、HEI(584Å)、OII(834Å)、H-Lα(1216Å)を十分分解できる。
MCP、CCDとは異なり、ダークノイズの影響がないため、光量が限られた共鳴散乱光観測に非常に有利である。特にEUVは物質中での吸収が高く、光子の吸収により信号を得るSTJでは高い検出効率(〜90%)を望めることも利点である。

本セミナーではSTJの紹介、理研での開発状況、STJによる磁気圏撮像について話したい。