第237回  
日時 平成14年5月15日(水)17:00より
場所 東京工業大学理学部地球惑星科学教室会議室
石川台2号館315号室
講 演 者: 中村圭子 (神戸大学自然科学研究科構造科学)
講演題目: 宇宙塵鉱物学〜超微小試料中の有機物その場観察・分析--
内容:  NASAが回収した未溶融・非汚染の宇宙塵試料の中には、彗星を起源とするものも
含まれており、その有機物研究が期待されている。しかし地球岩石試料ゃ讎石試
料に比べて3〜40ミクロンと微小であるため取り扱いが極めて困難で、有機分析
に限らず、サブミクロン技術に熟達していない限り貴重な地球外試料を紛失して
しまい、研究成果を得るまでに至らない。まo姶石においても、プレソーラー粒
子や有機物の研究は、化学的な抽出という過程を経てのみ可能であったため、揮
発性・水溶性の有機物は研究対象として除外せざるを得なかった。有機物を化学
抽出すると、他の鉱物との共成環境や形状が失われてしまうため、多くの研究者
がそれらのin situ(その場)観察・分析の実現に心血を注いできたが、これまで成
功には至らなかった。現在我々がNASA宇宙塵研究グループと取り組んでいるサ
ブミクロン技術を応用することによって、信頼度の高い研究成果が得られるよう
になった。またこの試料作成・分析法は、将来の小惑星・彗星サンプルリターン
計画によって持ち帰られた微量粉末試料分析にとって理想的である。
 我々は一昨年落下したTagish Lake荀石を新たな生物学的手法を応用して超膜薄片
化した後、透過型電子顕微鏡を用いてその場観察・分析を行った。その結果、理
論的に予言されていたがこれまで発見されることのなかったGreenberg星間塵
(分子雲中に存在する有機質星間塵)と構造・組成的に酷似したコアマントル構
造をもつアモルファス炭素質粒子を大量に発見した。 さらにそれらの非晶質炭
素が極めて弱い熱変成を受けた際に生成される金属内包炭素ナノカプセルも多数
見つかった。
 これらの炭素質物質の存在は、Tagish Lake荀石の母天体が形成時以来、極低温し
か経験していないことを示唆している。さらu姶石中に”球状”有機体が含まれ
ることは、宇宙空間あるいw姶石母天体に生命の材料物質が存在しているという
可能性を示唆している。現在ワシントン大学との共同研究として、この有機質粒
子の直接同位体(NANOSIMS)測定に取り組んでいる。
 また時間が許せば、現在開発に取り組んでいる多角的彗星探査衛星Rosettaについ
てもお話したい。

地惑セミナーの写真、講演に対するコメント


お茶会風景(お菓子食べたら、参加してください)


ゼミ風景


中村さん(中嶋研にて)



今年度最初の地惑セミナーは、現在神戸大学博士課程3年の中村圭子さんに「宇宙塵」に関する研究について講演していただきました。

今回は、宇宙塵そのものを分析したという話ではなくて、宇宙塵のようなミクロンサイズの物質を分析する方法を確立し、その方法を使って最近採取したTagish Lake隕石を分析した結果をお話されていました。その分析から、理論的に予言されていて今まで発見されていなかったGreenberg星間塵型に似た構造、組成を持つ粒子の存在を報告されてました。Greenberg星間塵のような有機物をまとった塵の存在は、小惑星帯に理論的に推定されている量よりも物質量が少ないという問題を解明する上で重要な鍵となるため、大変興味深い報告であると思います。

今後の宇宙塵の分析などにより、Greenberg星間塵型の粒子が観測的に存在するかどうかやその形成メカニズムなどを解明されることに大いに期待したいです。また、想像を絶するような緻密な分析手法や隕石採取でのエピソードなどもお話されており、あらためて分析系の方々の多大な努力に感心しました。

最後に、中村さんはとても面白い方で海外の大学院にも行った経験をお持ちだったので、日本の大学院と海外の大学院の生活などの違いをうかがうこともでき、参考になりました。海外の大学院に行きたい方は中村さんにアドバイスをいただくのもいいかもしれませんね。