第240回
日時 平成14年7月14日(水)17:00より
場所 東京工業大学理学部地球惑星科学教室会議室
石川台2号館315号室
講演者 小木曽 哲(海洋科学技術センター固体地球統合フロンティア研究システム
東京工業大学共同研究拠点)
講演題目 パイロキシナイトの高温高圧融解実験から眺めるホットスポットマグマの起源
内容、 地球のマントルの大部分はカンラン岩で構成されていると考えられているが、
他にパイロキシナイトと呼ばれる岩石が、少量ではあるが存在する。パイロキ
シナイトとは、輝石に富む一群の岩石のことで、その化学組成は、純粋な輝石
に近いものから中央海嶺玄武岩に近いものまで、きわめて多様である。パイロ
キシナイトは一般にカンラン岩より融点温度が低いため、マグマの生成という
融解プロセスにおいては、無視できない役割を果たしていると考えられる。本
講演では、高温高圧融解実験の結果をもとに、パイロキシナイトがホットスポッ
トマグマの生成に果たす役割について考察する。

地惑セミナーの写真、講演に対するコメント

小木曽さんは,主成分元素組成と相平衡岩石学の視点を用いて,現在あるいは過去の
マントルの状態を調べることで,究極的にはマントルから地球のダイナミクスを理解
することをめざしています.小木曽さんは,現在東工大の高橋研にて,昨年までの2
年間はミネソタ大学で研究されていて,今回はミネソタでの成果をもとに「パイロキ
シナイトの高温高圧融解実験から眺めるホットスポットマグマの起源」と題して講演
していただきました.

今回のお話のハイライトは,パイロキシナイトの高温高圧実験を行って,その結果か
らホットスポットマグマの起源には,パイロキシナイトが関与しているということを
示したという点です.

詳しく説明しますと次のようなことになります.カンラン岩(→マントルの大部分を
しめる)が部分融解してできたメルトとホットスポットの岩石の元素組成は一致して
いないそうです.とくに,MgO−Al2O3のグラフにおいては,カンラン岩メルトのデー
タがつくるトレンド(列状にデータが並んでいる様子をここではそう呼びます)は,
ホットスポットのデータがつくるトレンドとは重ならず,上側にずれています.つま
り,ホットスポットマグマは,カンラン岩メルトよりAlが乏しく,単純にカンラン岩
が融けたものと説明できないということです.そこで,小木曽さんはパイロキシナイ
トに着目し,その高温高圧実験を行いました.その結果から,カンラン岩にパイロキ
シナイトが加わったものが融けるときには,さきほどのトレンドを下方向(Alが乏し
い方向)に移動させるので,ホットスポットマグマのトレンドを説明できることを示
しました.また,その他の主成分元素全体の特徴も一致しているそうです.これらの
ことから,ホットスポットマグマの起源には,カンラン岩だけではなくてパイロキシ
ナイトが関与していると報告されていました.

シンプルな実験からこのようにホットスポットの起源に関わる重要な示唆ができると
いう点に驚きを感じるとともに,このような積み重ねがマントルのダイナミクスの理
解につながっていく壮大な流れを感じることができました.セミナー後は小木曽さん
を囲んで飲み会となりましたが,話題は研究者の将来,研究スタイルを含めて多岐に
わたり,とても楽しいひとときでした.小木曽さん,ありがとうございました.
(文:NM)