第242回 | |
日時 | 平成14年9月20日(水)17:00より |
場所 | 東京工業大学理学部地球惑星科学教室会議室 石川台2号館315号室 |
講演者 | 松野孝一郎 (長岡技術科学大学・生物系) |
講演題目 | 海底熱水環境でのアミノ酸の重合とその進化 |
内容、 | 星間宇宙での化学進化に駆動されながら、われわれの地球はそれに後続する前生物 進化、生物進化を可能とした。それを可能とした重要な舞台の候補に原始海洋での海 底熱水環境がある。熱水中に含まれているアミノ酸分子は熱エネルギーを獲得するこ とによって互いに重合することが可能となり、同じ熱エネルギーで解離される以前に 周りの冷海水中に放り出されるならば、重合に依って得られたオリゴぺプチドは冷水 中に留まることができる。そのオリゴぺプチドが海水中を巡って再び熱水環境に入り 込み、同様の過程を繰り返すならば、更なるオリゴぺプチドの伸張が期待される。そ こで、熱水から冷水、冷水から熱水に循環するフローリアクターを実験室内に建設 し、海底熱水口近傍を真似た環境中にグリシンを溶解させたところ、8量体までのオ リゴぺプチドの生成が確認された。このモノマーからオリゴマーへの転移は、モノ マーに潜在していた触媒機能がオリゴマーの生成に転化して行くことに対応する。海 底熱水環境は、単なる化学進化のみならず、有機分子相互の触媒機能の進化も併せて 可能にすることが示唆された。 |
暑い夏も終わり、勉強には最適な季節の中行なわれました今回の地惑セミナーは、
長岡技術大学の松野先生に「海底熱水環境でのアミノ酸の重合とその進化」という
題目で講演していただきました。
海底火山の熱水噴出口周辺では急激な温度勾配のため平衡論で期待されるような化学反応は
起こりません。そこで、本研究では、そのような環境下にアミノ酸があった場合
どのような反応を起こすかということに注目し、海底熱水環境を模した実験装置を
作って、そこで起こるアミノ酸反応を実験的に調べることをしました。その結果、
このような環境下では八量体のオリゴペプチドまで生成することができるようです。
現在、原始大気中でアミノ酸を重合させる、つまりRNAを作るためには、稀なもしくは
かなり繁雑なイベントを考える必要があるようです。この既存の説に比べて、今回の
研究結果はその重合過程になんら特別なイベントを導入しなくとも、海底熱水環境の
ような単純な系でアミノ酸重合が可能であると示唆している点で大変面白く、生命進化の
シナリオに対する新しい提案として意義深いと思いました。また、実験で見られた
重合反応の特徴(反応の履歴依存性や異なる触媒を入れた時の反応形態の変化)に
ついてもお話しされていましたが、まだこれらの詳しい理由についてはわかって
いないようです。理論系の人間としてはこちらの問題を考えてみるのもなかなか
面白いのではないかと感じました。
さて、松野先生の講演は専門用語があまりなく、また何がわかったかということを簡潔に
お話しされていたので、とてもわかりやすかったです。ただ、先生の研究が生命進化の
シナリオにおいてどこの位置にあるのかという説明が初めの方にあると全体的な流れが
掴めて良かったかなと思います。最後に、余談ですが長岡は米コシヒカリだけでなく
おそばも大変おいしい所だそうです。