第253回  
日時 平成15年7月2日(水)17:00より
場所 東京工業大学理学部地球惑星科学教室会議室
石川台2号館315号室
講 演 者: 掛川武 先生(東北大学大学院 理学研究科 助教授)
講演題目: 初期地球の海底熱水活動に依存した微生物群衆:その地球史上の意義
内容: 1.はじめに

海底熱水活動域が生命起源および初期進化の場であったと注目を集めている。海底熱 水鉱床中には、生命起源や初期進化に対するヒントが隠されているであろう。本発表 では、初期地球海底熱水場で見られた海底熱水活動に依存する微生物の姿を紹介し、 その地球史における意義を議論する。

2.海底熱水環境で始まった微生物酵素活性

AustraliaのPilbara地域に32億年前に形成された世界最古の海底熱水鉱床が存在す る。この鉱床に微生物由来有機炭素が多量に胚胎しており、ストロマトライト状組織 を持つ有機炭素濃集帯も見られる。これら有機炭素にMoやZnが濃集している様子が確 認された。MoやZnは酵素活性を行う上で重要な生体必須元素である。地質状況は、熱 水から放出された生体必須元素を直接微生物が取り込んだ事を示し、初期生命体が海 底熱水活動に依存していた一断面を示す。

3.海底熱水からの軽元素獲得

現世の海底熱水活動が起こっている水曜海山から掘削された試料の軽元素安定同位体 組成を測定した。その結果、火山体内部で同位体的に非常に軽いアンモニアが生成さ れ、熱水によって運搬されたアンモニアを微生物が巧みに用いる姿が具体化された。 熱水由来軽元素を微生物が使う様子をモニタリングした最初の例である。

4.それらの地球史上の意義

初期地球環境での海洋一次生産者の安定同位体組成は、水曜海山の熱水性微生物と似 たような特徴を有する。すなわち熱水性微生物が一次生産者であった可能性が存在す る。それが27億年前後に現世の光合成を主体とする一次生産に変化する。この漸移 は(a)地球内部のマグマ活動の衰え、(b)それに伴う海底熱水活動の衰退と大陸の安定 化、(c)海底熱水にかわり大陸からの生体必須元素供給開始に起因していると考えら れる。固体地球側のエネルギー放出変化史に忠実に反応する形で生命は初期進化を果 たした。