第262回 | |
日時 | 平成16年5月26日(水)17:00より |
場所 | 東京工業大学理学部地球惑星科学教室会議室 石川台2号館315号室 |
講 演 者: | 上野 雄一郎 氏 (東京大学教養学部地球科学グループ) |
講演題目: | 太古代の生命活動と初期地球表層環境 |
内容: |
太古代(40-25億年前)の大気・海洋は分子酸素の少ない還元環境であったと一般
に理解されているが、そのような地球初期での生命活動や表層環境との相互作用につ
いて分かっていることは極めて少ない。これまで演者らは西オーストラリアなどに分
布する太古代地質体の野外調査を基礎として当時の生命活動を検知しようと試みてき
た。現在、採取試料の分析から特に(1)硫酸還元と(2)メタン生成を行う二種類の微生
物活動に注目して研究を進めている。これら二種類の生物は現生の全生物の中でも最
も原始的な原核生物である。またこれらは無酸素環境で成育する嫌気性の原核生物で
あり、好熱性もしくは超好熱性の種が多い。このため、初期地球の大気海洋において
は炭素や硫黄循環に中心的な役割を果たしたであろうと推測されている。
まず硫酸還元菌の活動は地層中に残された硫化鉱物の硫黄同位体組成から検知する
事が出来、その活動は約35億年前までさかのぼるとされている。さらに近年太古代
の硫化鉱物が硫黄の同位体異常を持つことが知られるようになり注目を集めている。
この同位体異常は貧酸素大気中で火山ガスが紫外線を受け光分解される際に作られる
ため、硫黄同位体組成の研究は当時の大気・海洋・生物圏を含む硫黄循環を知る上で
重要であることが分かってきた。このような見地から現在進行中の研究について紹介
する。 一方メタン生成菌の活動はそれが放出したメタンの炭素同位体組成から検知する事 が出来るが、不活性なメタンガスが地層記録に残ることが希であるため太古代におい てメタン生成菌の活動が実証された例は未だにない。そこで、演者は熱水岩脈中に流 体包有物として保存されているメタンガスを発見し、またその炭素同位体分析法を開 発中である。講演ではその予察的な分析結果を紹介する。 こうした微生物活動、特にメタン生成は初期地球の大気を考える上でも重要であ る。 こうした研究は暗い太陽のパラドクスを解消する温暖化ガスとして最近見直されつつ ある初期大気中メタンが実際に生物活動によって供給されたのかを判定する事にも他 ならない。 |