第265回  
日時 平成16年6月30日(水)17:00より
場所 東京工業大学理学部地球惑星科学教室会議室
石川台2号館315号室
講 演 者: 横畠 徳太 氏(国立環境研究所)
講演題目: 火星表層環境進化における CO2・H2O の役割
内容: 現在の火星は地球に比べて非常に寒冷な惑星(赤道での 日平均気温 -58℃)である。しかし様々な地形学的証拠から、 初期(約 38 億年前)の気候は液体のH2Oが安定に存在できる ほど温暖であり、それ以降も温暖な時期がたびたびあったと 推測されている。
恒星進化の理論によれば過去の太陽光度は現在よりも 小さかったはずである。それにも関わらず現在よりはるかに 温暖な環境が実現したメカニズムについては不明な点が多い。 この問題は地球型惑星において(液体の水が安定に保たれる ような)温暖な環境が保たれる条件についての知る上でも、 非常に重要な問題である。
地表温度を決める上で第一に重要であるのは、大気中の CO2分圧である。これはCO2が地球型惑星の表層に大量に 存在し、かつ強力な温室効果を持つ物質であるためだ。 現在の火星では極域でCO2の凝結蒸発が起こり、大気と 極冠の間でCO2分配が起こることにより大気量が決まっている。 過去においては、表層のCO2総量や惑星軌道要素が現在とは 異なり、極域の熱平衡状態ひいては大気に分配されるCO2量が 変化することにより、全球的な温暖化ないしは寒冷化が生じると 考えられている。特に温暖期の火星表面にはH2Oが豊富に存在し、 これがアルベド分布を変えることにより、表層環境の形成に大きな 影響を与えた可能性がある。
本研究ではこの点に着目した新たな解析を行う。
一方CO2分圧が高い場合の温室効果を決める上で重要なのが、 大気中のCO2凝結によって形成される雲である。 CO2の雲は地球におけるH2Oの雲とは光学特性が異なり、 太陽放射よりも赤外放射を効率的に散乱することにより、 強力な温室効果を持つと考えられている。
本研究では雲層における熱および質量の収支を考慮することにより、 CO2雲の安定性とその温室効果について新たな検討を加える。