要旨:
光合成生物がアンテナ色素として合成するクロロフィル、バクテリオクロロフィル類の中心環は
続成作用に強く、ポルフィリン類として長く堆積物中に残されることが知られている。
われわれのグループは、このポルフィリン類の炭素・窒素・水素同位体比を用いて古環境を
復元する論理および手法の開発を行っている。
特に窒素同位体比に関しては、窒素原子を含む良いバイオマーカーが他にないため、
堆積物中のポルフィリンの窒素同位体比は、過去の海洋の窒素サイクルの復元に質のよいデータを提供する。

現在その手法を地質試料に応用している段階であるが、ケーススタディとして、中新世の女川層、
白亜紀海洋無酸素事変の黒色頁岩についての結果を紹介する。それらは、光合成生物の細胞の
窒素同位体比が0〜+1パーミルにあったことを示し、当時の海洋の一次生産においては窒素固定が
重要なプロセスであったことを強く示唆した。またポルフィリンの分析結果は、クロロフィルaが
主要なアンテナ色素であることが示唆された。これらのことから、窒素固定を行うシアノバクテリア
が重要な光合成生物であったと考えられる。