要旨:

1,オフィオライト研究の意義
 オフィオライトは過去の海洋地殻や海山,海台などの断片が様々な構造プロセスを
経て、大陸や島弧に露出しているもので、その成因を解明することはテクトニクスに
制限条件を与える。オフィオライト研究の醍醐味の一つは、3次元的精密解析が可能
なことである。海洋地殻形成プロセスなどに関する研究はオフィオライトからのアプ
ローチが重要である。

2.オフィオライト論争とオフィオライトの生成場
 1980年代にトルーダス(キプロス)を舞台として激しく交わされたオフィオライト論争は
都城氏の勝利に終わった。この論争を契機として生成場推定のための組成区分図が
多数提案され、それを駆使して生成場を推定する議論が主流となった。その結果、
オフィオライトの殆どが沈み込み帯の上(SSZ)で形成されたとみなされるようになった。
問題の一つは組成区分図自体にある。組成区分図に用いられてきたMORBは大部分
MARとEPRからのデーターに基づいている。しかしインド洋MORBが独自の特徴を有して
いる事は従来から指摘されている。実際、幾つかの組成区分図においてインド洋MORB
は背弧海盆玄武岩や島弧玄武岩との重複領域にプロットされMORB領域にはプロットさ
れない。つまり、インド洋MORBに関連したオフィオライトにMARやEPRに基づく組成区
分図を単純に適用して生成場を推定する研究には論理的に問題がある。

3.オマーンオフィオライトを巡る状況
 オマーンオフィオライトは世界最良のオフィオライトとして注目され、数多くの研究がな
されてきた。しかし、成因から上昇テクトニクスにいたる広範な問題に関して深刻な論
争が続いている。SSZで形成されたとする見解と、その影響を被っていない高速拡大
軸で形成されたとする見解である。しかし、欧米研究者の多くはSSZ起源と見なしてい
る(Shervas, 2001; Hawkins, 2003; Bloomer, 1995など)。しかしそれが島弧本体,背
弧海盆、はたまた前弧起源であるのかは各人各様である.オフィオライト論争の負の
遺産が引き継がれているといえよう。

4.オマーンオフィオライト研究の最先端:海洋地殻形成と海洋地殻の改変プロセスの解明
 講演の後半部は,オマーンオフィオライトにおける最近の進展状況について紹介する。
主な話題は
1)海嶺セグメント構造の解析
2)「グラニュライト」の広域的出現とその意義
3)後期火成活動の実体とその意義
4)海洋地殻形成モデル
などである。