要旨:
 カソードルミネッセンス(Cathodoluminescence: CLと略す)は、加速電子を物 質に照射した時に放出したされる発光現象である。
発光が生じる過程は、結晶 構造や内在する構造欠陥ならびに不純物元素の存在などを鋭敏に反映すること から、
他の分析手段では得られない貴重な情報を提供してくれる。電子線を絞っ てビームとして使う走査型電子顕微鏡
カソードルミネッセンス (ScanningElectron Microscopy Cathodoluminescence: SEM-CL)は、特に物性評価の分野では
必要不可欠な研究方法として広く採用されており、半導体中の欠 陥の検出やバンドギャップの評価、
また光デバイスの機能評価などへの応用例 はよく知られている。  一方、地球科学分野におけるCLは、
石英や炭酸塩鉱物からなる堆積岩の続成 過程の解析や後背地推定、ジルコンのU-Pb法(SIMS)適応のための累重成長組織
観察、隕石構成鉱物のキャラクタリゼーションなど多岐にわたり、最近ではリ モートセンシングによる惑星探査など
新たな活用も図られてきた。
多くの場合、 冷陰極型のCL装置(Luminoscope)を用い光学顕微鏡と組み合わせて岩石薄片など を観察しCL像を撮影するものである。
しかしながら、CLの適用は、発光色や強 度およびそれらに基づく発光中心の同定や発光中心濃度の推定などが主であり
定性的な取り扱いがほとんどである。これは、CLを産地産状を異にする天然の 鉱物に適応する場合、
多種の不純物元素が組み合わさって含まれており、地質 時代を通して蓄積された自然放射線による構造欠陥など、鉱物の
CL発現に関与 する要素があまりにも多く複雑であることが一因となっている。  

  近年CL装置は、微弱な発光を高効率で集光するシステムや高感度の検出器の 開発、また他の分析手段(EPMAなど)
とのコンピュータを介しての連係システム の確立などにより格段の進歩を遂げてきた。
さらに、堆積学研究分野ではファ ブリック解析や砕屑性鉱物粒子を用いた後背地推定において、
またジルコンの SHRINPによる微小部年代測定の際には不可欠な分析手段となっている。このため、CLについての
啓蒙書の出版や地球科学への応用について解説がなされるよ うになり(例えばPagel et al., 2000; Michael et.al., 2005)、
CLに関しての 国際学会も開催されるに至った(Cathodoluminescence in Geoscience, in Freiberg, Germany, 2001)。
しかしながら、使用する装置によりスペクトル特性に違いが生じたり、またのそれを校正するためのCL用標準試料がない
など問題も多くある。

  当研究室では、岡山理科大学に設置されたOxford社製 SEM-CLを使用して、鉱物のCL を定量的に評価すべく、
装置の基本的性能および 分析条件の検討、赤外領域のCL測定、試料温度制御による鉱物のCL評価などに ついて取り組んできた。
この装置は、試料ステージを液体窒素温度から400℃ま での広い範囲でコントロールすることが可能であり、
任意の試料温度でCLスペ クトル測定ならびにCL像の取り込みを行える。
さらに、EDSと組み合わせCL像を 効率的に取得できるよう設計されたGatan社製MiniCLも併用できる。

今般は、一般になじみの薄いCLについて原理や測定法を解説するとともに、地球科学分野への最近の応用に関する研究事例を紹介する。