系外惑星系


プラネット・ハンティング:苦難と栄光

異形の惑星

生命の惑星へ


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「異形の惑星 〜系外惑星形成理論から」NHKブックス、
「惑星学が解いた宇宙の謎」洋泉社新書y から抜粋・改訂
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■ プラネット・ハンティング:苦難と栄光


二〇世紀の中盤に入ると、急速に進歩した望遠鏡技術を使って、 他の恒星での惑星探し「プラネット・ハンティング」が始まった。 一九四〇年代には、いくつもの恒星で惑星を発見したという発表があった。 その中でもアメリカのピーター・バンデカンプが発表した バーナード星は数十年の長い間、話題になった。しかし、 他のチームの観測による追試が成功せず、一九七三年、 ついに決定的な反論が提出され、バーナード星の惑星は否定された。

それからの二〇年間あまり、プラネット・ハンティングは、 長い長い沈黙の時代を迎える。 一九八〇年代にはいると、それまでのアストロメトリより 高精度のドップラー法が考案され、系外惑星探しが細々とながら再開された。 しかし、それでも惑星は見つけられなかった。 当時の最高技術を もっていたカナダのゴードン・ウォーカーの観測チームは 「他の恒星のまわりに惑星はない」と 結論する論文をに一九九五年八月に発表した。 プラネット・ハンティングからの撤退宣言だった。

銀河系にはこれだけたくさんの太陽と似た星々があるのに、 惑星を育む星は太陽だけなのか、地球は孤独なのか。多くの科学者たちは プラネット・ハンティングをあきらめかけ、太陽系や地球は特殊な 存在なのかもしれないと考えはじめていた。

……ところが。

一九九五年一〇月。 ぺガサス座51番星に惑星が発見された。惑星探しのレースにおいて ダーク・ホース的だった、スイスのマイヨールたちのチームの発見だった。 今度は他チームの追試が成功した。数々の検証を経て確認された。 突然の逆転劇だった。

ほとんどの観測チームは系外惑星を発見するのに十分な観測精度を すでに得ていた。しかし、彼らは(われわれ理論研究者も) 系外惑星系が存在するとしたら、太陽系とそっくりな姿のはずだと考えた。 そのように太陽系の姿に因われたことが、系外惑星のデータを得ていても、 見逃してしまった最大の原因だった。 マイヨールたちは恒星連星のプロであって、惑星形成理論に詳しくなかったので、 それに因われずにすんだのだった。

その後、一九九六年までの一年間にさらに約一〇個、 二〇〇二年には発見された惑星はなんと一〇〇個に達した。

これらのことによって、銀河系の太陽と同じような恒星のうち、少なくとも 数十個にひとつ、もしかしたら数個にひとつの星が惑星を率いているということが、 わかってきた。 もはや銀河系の無数の恒星の多くに惑星がまわっているということを疑う余地はない。



■ 異形の惑星


発見された系外惑星の多くは、太陽系惑星からは想像だにできない、 異形の惑星だった。恒星の表面を かすめるような至近距離を強烈な恒星光にさらされながら数日で高速回転する 灼熱巨大惑星「ホット・ジュピター」、彗星のように、中心星からの距離を 大きく変えて、灼熱から酷寒までのめぐるましい四季を繰り返しながら周回する 楕円軌道巨大惑星「エキセントリック・プラネット」、死へ向けて 膨張を続ける赤色巨星をめぐる巨大惑星…… この多様な姿の惑星たちが 無数の恒星たちのまわりをめぐっている。

一九九五年以降、多様な姿、異様な姿の系外惑星が次々と発見され、 それらは既存の太陽系形成理論を適用するのでは到底説明不可能に見える。 今、惑星系形成理論は、太陽系の形成とともにそれらの多様な 惑星系の形成も統一的に説明することを要求され、再構築を迫られているのである。

系外惑星がたくさん見つかって、惑星系形成理論は太陽系の形成理論 を意味するだけではなく、多様な姿の系外惑星の形成をも説明すべき 理論を意味することになった。 太陽系形成の標準モデルは、たしかに太陽系の姿のだいたいのところは 説明することができるが、かなり深刻なものも含めて問題も多々ある。 ましてや太陽系の姿から遠く隔たった、多様な姿の系外惑星は、 これまでの太陽系形成の標準モデルをそのままの形で適用するのでは、 説明できないことは明らかだ。

異形の系外惑星たちの驚くべき観測結果を迎えうつ、 われわれ理論科学者たちはどうしたらいいのか?

すべきことは、太陽系形成標準モデルを徹底的に洗い直し、 標準モデルに隠れていたり抜けていた新たな可能性を探りだし、 それを系外惑星系に適用することだ。 太陽系の姿や太陽系形成の標準モデルの雰囲気や常識に因われるのではなく、 論理的に考えて、新たな可能性はオープンに考える。 一方で、太陽系の姿を説明するために無意識に行なわれてきた、 チューニングははずして考える。太陽系の姿に因われたことが、系外惑星の発見を 遅らせた事実をふまえて、標準モデルの論理をきちんと理解した上で、 より多様な状況に適用した場合どういうことがありうるのかを 検討することが必要だろう。

われわれの研究室では、ホット・ジュピターや エキセントリック・プラネットの形成理論や、そのような異形惑星が 存在する惑星系で地球型惑星があったらどうなるのか (軌道は安定か? 自転軸の変動は?)を、力学的な側面から解明しようとしている。 詳しい理論モデルの内容については、 「異形の惑星 〜系外惑星形成理論から」(NHKブックス)を参照されたい。



■ 生命の惑星へ


一方で、このような常軌を逸したような様相の惑星系だけではなく、 太陽系と似たような、 同心円状に惑星が秩序正しくめぐる惑星系も少なからず存在することがわかってきた。 そこには地球と同じように海を湛え、 生命が存在する惑星もたくさんあるかもしれない。

「異界惑星系」の「異形惑星」の探索は系外惑星研究のひとつの柱だが、 逆の方向性である、太陽系と似た惑星系の地球のような生命居住可能惑星の 存在をつきつめていくというも、大きな柱だ。NASAのTPFやヨーロッパの Darwin計画は、水を湛える地球型惑星を衛星望遠鏡によって直接観測し、 生命の存在しているサインを探そうというプロジェクトだ。

われわれの研究室では、惑星形成理論にもとづいて、 系外の生命居住可能地球型惑星の存在確率を理論的に推定しようとしている。 基本的なコンセプトは、その惑星系が生まれる原始惑星系円盤の質量によって、 出来上がる惑星系の姿が決まるとして、 あとは原始惑星系円盤の質量分布を決めることができれば、 どのような姿の惑星系がどれくらいの確率で 存在しているかの分布が決まるはずだということだ。 現段階では、出来上がる惑星系の円盤質量への依存性を精力的に調べている。 これがわかれば、たとえば水の海が表面に存在可能な領域(Habitable zone)に 地球型惑星が存在する惑星系がどのくらいの確率であるのかがわかるはずだ。

ただし、「惑星系形成過程の基礎物理」でも述べたように、 ダストから微惑星への問題、巨大ガス惑星の形成、惑星落下問題、 軌道不安定の問題など、複雑なプロセスが絡み合っていて、一筋縄ではいかず、 やるべきことはたくさんある。

一方で、異形惑星系でも、地球の生命とは全く異なった生命が 存在している可能性は忘れるべきではないだろう。日本のSF作家たちは、 ホット・ジュピターが中心星の潮汐力で常に同じ面を中心星に向けて いることに目をつけ、夜半球に生息する生命へと想像をめぐらしている。