第311回 †日時 平成20年10月21日 火曜日 午後5時より 場所 東京工業大学 石川台6号館 404号室 <講師> 小林 憲正 先生 (横浜国立大学大学院 工学研究院・機能の創生部門) <題名> 「生命は宇宙から来たのか-PanspermiaとChemo-panspermiaの検証」
2.模擬星間環境での複雑有機物の生成 われわれは、星間塵アイスマントル中に検出されている一酸化炭素、メタノール、アンモニア、水などの混合物(気相・液相・固相)に宇宙線の作用を模して陽子線(東工大、高崎原研)または重粒子線(放医研)を照射し、その生成物の分析を行った。液体窒素中で凍結したメタノール・アンモニア・水の混合物に炭素線(290 MeV/u)を照射した時、生成物を酸加水分解すると種々のアミノ酸が検出された。グリシンのエネルギー収率(G値)は0.007であり、室温(液体)で照射した時の1/2であった。加水分解前の生成物は、分子量2000程度であり、熱分解GC/MSで分析すると複素環化合物やニトリルが検出された。 Croninらは,マーチソン隕石(CM2)中の一部のアミノ酸にL体の過剰が存在することを報告した。これは地球生物がL-アミノ酸を用いることになった起源が宇宙にある可能性を示唆している。宇宙における不斉創生の原因としては,中性子星からの円偏光紫外線照射が候補に挙げられる。われわれは,一酸化炭素、アンモニア、水の混合物に陽子線照射した際に生成した複雑な構造を有する高分子状アミノ酸前駆体に,円偏光放射光(NTT)を照射した。これを加水分解するとアミノ酸のエナンチオ過剰が検出された。また, 以上のことから、分子雲中で宇宙線などにより生成した高分子状アミノ酸前駆体が中性子星からの円偏光によりエナンチオ過剰を生じたのち、彗星・隕石・惑星間塵(微隕石)などにより原始地球海洋に届けられたというシナリオが描かれる。彗星・隕石と比べて,惑星間塵(微隕石)の場合、地球進入のおりの分解が少ないという利点があるが、地球軌道近くでは太陽紫外線などにより有機物が変成してしまう可能性が考えられる。 3.Panspermia説の検証:たんぽぽ計画 われわれは国際宇宙ステーション日本実験モジュール(JEM)暴露部で,このPanspermia説を検証するための実験「たんぽぽ計画」を計画している。この宇宙実験では,JEM曝露部でダストを捕らえ、その中の微生物と有機物を分析すること、微生物や有機物を実際の宇宙環境に暴露し、その安定性を調べることなどを行う。 これまで,成層圏で放射線耐性の微生物が採集されていることから考えて,微生物がダストに付着しえ宇宙ステーション高度まで達している微生物がいる可能性が考えられる。宇宙ステーションでダストを捕らる場合,ダストは数〜十数km/sで衝突して来ることになる。このため,スターダスト計画でも用いられたエアロジェルをさらに改良した0.01 g/cm3という超低密度のものを開発して用いる予定である。 微隕石は,これまで成層圏や南極の氷中などで採集されてきたが,生体関連有機物に関しては地球生物圏からのコンタミが問題であった。たんぽぽでは,これを地球圏外で捕らえて分析するのが目的である。微隕石から生体有機物が検出されれば,「化学パンスペルミア(Chemo-Panspermia)」の可能性は格段に大きくなる。現在,二段式軽ガス銃を用いたダスト捕獲のシミュレーションを行っている。 4.おわりに:アストロバイオロジー・ネットワーク 宇宙における生命の起源・進化・分布・未来を探る「アストロバイオロジー」は天文学・惑星科学から化学・生物学にいたる学際科学であるが,さらに国際的なネットワークも必要である。現在,Federation of Astrobiology Societies (FAO)が作られており,米欧やオーストラリア・イスラエルなどが加入しているが,日本はまだ入っていない。日本でも「日本アストロバイオロジー・ネットワーク」を作り,FAOに参加することを準備中である。 参考図書 「アストロバイオロジー 宇宙が語る生命の起源」小林憲正,岩波科学ライブラリー(2008). 「太陽系と惑星」(シリーズ天文学9),渡部潤一他編,日本評論社(2008), 第8章. |