第332回

日時 平成22年7月7日 水曜日 午後17時より
場所 東京工業大学 石川台2号館 318号室 
<講師> 中沢 弘基先生  (物質・材料研究機構)
<題名> 生命起源の地球史的必然性

「そもそも生物は何故進化するか」を熱力学的視点で考察すれば、生命の発生と進化は地球のエントロピーの減少によってH,C,N,Oなど地球軽元素が規則化・組織化する必然的な現象であると理解される[1]。原始地球が核・マントル・地殻の層構造に分化し更に複雑に組織化する現象と同じで、その軽元素版である。

従って、生命発生のプロセスは全て、物理・化学的な合理性と共に地球史的必然性を有するはずである。生命の起源のシナリオは地球が書いたと言えよう。読み解くのは諸兄、地球惑星科学の学徒の役割である。

地球史的必然性を根拠に考察して、生命発生に必要な有機分子の起源は40億年~38億年前頃頻繁であった海洋への隕石爆撃の際の、海洋の水、空気の窒素、隕石の鉄と炭素の反応に依って多量に生成したであろうとする“有機分子ビッグバン説”を提唱した[1,2]。同説は最近、衝撃実験によりその妥当性を実証して少々世間の耳目をあつめた[3]。

生命体を構成するアミノ酸や糖など、主要な生物有機分子のほとんどは水溶性(親水性)で、さらに粘土粒子に良く吸着・包接・反応する性質を有する。

何故、生物有機分子は“水の惑星”の水と粘土に親和的なのか?この謎は、有機分子ビッグバンによって生成した多様な有機分子のうち、水溶性で粘土親和性の分子が凝集・沈殿することによって自然選択され、紫外線や弱酸化的大気の環境をサバイバルしたと、地球科学的視点に立つとその必然性が理解できる。

生命発生に至る複雑なシナリオは、斯様な地球史に沿った物理化学的条件における反応と自然選択の繰り返しで構成されている。生命は地下で発生して海洋に出て適応放散した、と主張する地球科学的生命起源説を時間の許す限り述べて諸兄の参考に供したい。

[1]中沢弘基、生命の起源・地球が書いたシナリオ、新日本出版(2006)

[2]中沢弘基、Viva Origino 37, 52-60 (2009)

[3] Furukawa et al., Nature Geoscience, 2, 62-66 (2009)。


Last-modified: 2010-07-02 (金) 12:59:06 (4126d)