第340回

日時 平成23年6月1日 水曜日 午後5時より
場所 東京工業大学 石川台2号館 318号室 
<講師>  三浦 均 先生  (東北大学大学院 理学研究科 地学専攻 COE助教)
<題名> 「過冷凝固とコンドリュール形成」

地球に落下する石質隕石には,直径1 mm程度の球状珪酸塩の組織が含まれており,コンドリュールと呼ばれる。これは,46億年昔の初期太 陽系において,mmサイズの珪酸塩ダスト集合体が,(i)なんらかのメカニズムによって加熱されて溶融し,(ii)周囲の星雲ガスと元素交換を 行ない,(iii)その後急冷凝固したものだと考えられている。46億年前の初期太陽系における固体物質進化を知るためにはコンドリュール形 成過程を解明することが重要であるが,未だに未解明の部分が多い。その原因のひとつとして,コンドリュールメルト凝固過程(iii)の理解 が進んでいないことが挙げられる。

コンドリュールメルト凝固の特徴は,それが浮遊状態で行われたことである。浮遊,すなわち,非接触状態である。例えば,水を冷凍庫で 凍らせる場合,水は製氷容器に接している。水-容器界面においては氷の核が形成しやすいため(不均質核形成),比較的容易に結晶化が生 じる。一方,浮遊非接触状態では,不均質核形成が生じない。よって,結晶化するためには,液相内部で自発的に氷の核を作らなければな らない(均質核形成)。だが,均質核形成は,不均質核形成と比べて,一般的に極めて困難である。その結果,コンドリュールメルトは融 点を数100 K程度下回っても結晶化せず,"大"過冷却状態が実現すると考えられる。

このような大過冷却状態からの結晶成長過程は,平衡凝固(融点付近でゆっくりと凝固)と比べ,大きく異なる。例えば,結晶成長速度は 極めて速く(~数cm/s),結晶化潜熱の解放による急激な温度上昇が生じ(recalescence),結晶-メルト界面において著しい濃度不均質が 現われる。結晶成長に伴う温度場と濃度場の急激な変化は,結晶-メルト界面の形状を不安定化させ,樹枝状結晶のような複雑なパターンを 作り出す(Mullins-Sekerka不安定)。過冷凝固に伴うこれらの物理現象は,コンドリュールに見られる様々な凝固組織の形成と本質的に関 係していると考えられるが,これまではほとんど調べられていなかった。

本セミナーでは,過冷凝固の基礎的内容について解説を行ない,これがコンドリュールメルト凝固においてどのような形で現われるのかに ついて紹介を行なう。また,その結果が,従来のコンドリュール形成シナリオにとってどのように影響を与えるのかについて考察を述べ, 今後の展望についても議論したい。


Last-modified: 2011-05-29 (日) 13:31:06 (4710d)