第349回

日時 平成24年6月6日 水曜日 午後5時より
場所 東京工業大学 石川台2号館 318号室 
<講師> 臼井寛裕さん(横山研助教)、西田圭佑さん(高橋研PD)、斎藤誠史さん(上野研PD)
<題名> 「ニューカマーシリーズ」

2012年度最初の地惑セミナーとなる今回は「ニューカマーシリーズ」と題して、今年度より東工大地惑に移って来られた方に短めの講演をしていただくことになりました。

 

【臼井さん】 タイトル:火星の水の起源:火星隕石中のカンラン石メルト包有物の地球化学的研究からの制約

アブストラクト:揮発性元素(例えば水素や炭素)は,惑星集積時およびその後の火成活動による脱ガスを通じて大気組成を変化させ,生命の存在条件と密接な関係をもつ表層環境に大きな影響を及ぼすことが知られている。近年の探査により,火星は現在の姿とは全く異なる温暖で湿潤な環境を過去に保持していたことが明らかとなった。このような火星気候・表層環境の変遷は,地球化学的な情報として火星隕石を代表とする岩石試料に記録されている。本研究では,二次イオン質量分析計 (SIMS)を用いた低ブランクでの揮発性元素分析法を開発し,それを始原的な火星隕石中に含まれるカンラン石メルト包有物に適用することで,火星集積の際にマントルに取り込まれた水の初生水素同位体 (δD=~275‰) を正確に見積もった。その結果,火星の水は,地球と同様,短周期彗星や炭素質コンドライト母天体に代表されるような太陽系小天体を起源とすることが明らかとなった。一方,現在の火星大気は地球と比較し極めて“重い”水素同位体組成 (δD=~4,000-5,000‰)を有することから,大規模な大気散逸に伴う同位体分別を経験したことが示唆され,この宇宙空間への火星大気散逸が火星気候寒冷化を招いた大きな要因の一つと考えられる。

 

【西田さん】 タイトル:高圧下におけるFe-Sメルトの密度および音速測定:地球および月核への応用

アブストラクト: 地球の外核は、地震波観測と衝撃圧縮実験の比較から、熔融鉄に比べ密度で約 10~15%小さく、弾性波速度で約3%程度速いことが知られており (Brown and McQueen?, 1986; Anderson and Ahrens, 1994)、外核中には、鉄メルトの密度を 下げ、音速を速くする効果のある軽元素が溶解していると考えられている。硫黄 は太陽系存在度が高く、低圧から鉄 と反応し、マントル中で欠乏していること から主要な軽元素の候補の一つと考えられている(e.g. Murthy and Hall 1970, 1972)。最近のアポロの月震の再解析結果によると、月にFe-Sの液体核が存在す ることが示唆されており(Weber et al., 2011)、地球や月の核の構造やダイナミ クスを明らかにする上でFe-S系メルトの密度および弾性波速度は非常に重要である。 本発表では、これまで我々が行ってきたマルチアンビル型高圧発生装置を用いた Fe-Sメルトの密度測定および音速測定手法を紹介し、地球および月 の外核中に 含まれる硫黄量について簡単に議論を行う予定である。

 

【斎藤さん】 タイトル:古生代末の大量絶滅事件直前における環境変動:南中国・四川省北部の層序学的研究

アブストラクト: 約2億5000万年前の古生代末において顕生代最大の大量絶滅事件が起きた。この事件により浅海棲無脊椎動物種の約90%が絶滅したとされる。これまで洪水玄武岩の噴出や浅海域の貧酸素化などの複数の環境変動が絶滅原因の候補として挙げられてきた。しかし絶滅の究極の原因は未解明である。とくに,海洋深層における長期的な貧酸素事件(Superanoxia)と海洋表層における絶滅事件の間の具体的な因果関係は明らかにされていない。 発表者は南中国・四川省北部のセクションにおいて,絶滅境界層の層序確立を試みてきた.この結果,絶滅事件の起きる直前の期間において,光が十分届かない少光帯に,(1)貧酸素水塊が出現し,かつ(2)特異な炭酸塩結晶が大量に沈殿したことを明らかにした。これらの事実は,深海からの重炭酸塩イオンに富んだ貧酸素水塊の湧昇によって浅海域の絶滅事件が引き起こされた可能性を示唆する。


Last-modified: 2012-06-12 (火) 10:51:36 (4351d)