第359回 †
日時 平成25年5月8日 水曜日 午後5時より
場所 東京工業大学 石川台2号館 318号室
<講師> 齋藤 実穂さん(長井研 PD)、西野 真木さん(綱川研 研究員)、佐藤 友彦さん(流動機構 研究員)
<題名> 「ニューカマーシリーズ」
2013年度最初の地惑セミナーとなる今回は「ニューカマーシリーズ」と題して、今年度より東工大地惑に移って来られた方に短めの講演をしていただくことになりました。
【齋藤さん】
タイトル:複数衛星で調べるオーロラ爆発の起源
要旨:
地球の極域では、1日1-3回のオーロラ爆発が起こっている。
オーロラ爆発は、地球の磁気圏が太陽風からエネルギーを吸収し、解放することに伴って起こっている。これは、地球の磁気圏がどのようにエネルギーを蓄積し、それがどこにどれだけあるのかという磁気圏物理の問題になっている。私は、これを調べることで、どのようにオーロラ爆発が起こっているのか明らかにすることを目的として研究を行っている。このために、複数の人工衛星による同時観測および大規模電磁流体計算結果を用いて地球の磁気圏を調べている。米国が2007年に打ち上げた5機の人工衛星THEMISのデータを解析した結果、オーロラ爆発前の磁気圏プラズマシートの鍵となる変化を捉えることができた。ここから得られた結果によって、オーロラがなぜ爆発的になるのか、という問いに一つの新しい説明を加えることができた。
【西野さん】
タイトル:月周回衛星SELENE(かぐや)による月のプラズマ探査
要旨:
近年、月周回衛星SELENE(かぐや)によって月周辺の宇宙プラズマ・電磁場の探査が行われ、多くの新たな知見が得られつつある。今回のセミナーでは、SELENEの観測成果のうち太陽風と月の相互作用に着目し、特に昼間側の磁気異常付近の現象を議論したい。太陽風は超音速であるため、磁気圏などの大きな障害物に衝突する場合には衝撃波が形成されるが、月は固有磁場を持たないため磁気圏も衝撃波も形成されない。ところが、月の地殻の一部の領域は強く磁化していることが知られている(これを磁気異常と呼ぶ)。この磁気異常に太陽風プラズマが衝突するとき、どのような物理現象が起きるだろうか? 磁気異常に衝突した一部の太陽風イオンは、磁気ミラー効果によって反射される。このとき、磁気異常の空間スケールが太陽風イオンのジャイロ半径と同程度であるため、磁気異常と宇宙プラズマの相互作用はプラズマ運動論的なものとなる。SELENEは高度20~100kmで磁気異常と太陽風の相互作用を直接観測することに成功しており、イオンと電子の運動の差による効果が本質的であることが観測データから明らかになった。
【佐藤さん】
タイトル:遠洋深海チャートの鉄化学種分析:後期原生代—顕生代における海洋酸化還元環境の変遷
要旨:
後期原生代に大型多細胞動物の出現と前後して酸素濃度が上昇し、太古代以来還元的状態にあった深海が初めて酸化的になったと考えられているが、その時期や程度の詳細は明らかにされていない。過去の付加体中に産する遠洋深海チャートは、2億年前以前の遠洋深海の情報を得られる唯一の試料であり、地球史を長期的な視点で研究する上で重要な堆積岩である。遠洋深海チャートに含まれる鉄鉱物(赤鉄鉱、黄鉄鉱など)は、堆積時の深海水の酸化還元条件を定性的に反映する。これまでに、後期原生代—顕生代の遠洋深海チャートについて、メスバウアー分光法を用いた含有鉄化学種の同定を行った。その結果、古生代前期および後期原生代において、深海はFe(Ⅲ)/Fe(Ⅱ)の酸化還元電位を上回る酸化還元環境にあったことが明らかになった。深海が初めて酸化的になった時期は、少なくとも後期原生代エディアカラ紀までさかのぼることができる。