EPSS

第386回

日時 平成27年07月08日 水曜日 17時より
場所 東京工業大学 石川台2号館 318号室 
<講師> 近藤 望 様 (京都大学 総合人間学部自然科学系大学院人間・環境学研研究科 博士課程1年)
<題名> 冥王代初期の地球におけるケイ酸塩分化と「失われた貯蔵庫」の形成

 現在、地球とコンドライト隕石では一部の同位体比や微量元素存在比に違いが見られることがわかっている。地球の起源をコンドライト的物質と考えた場合、この地球-コンドライト間の違いを補填する組成を持つ貯蔵庫が必要となるが、このような貯蔵庫は未発見であり、「失われた」(あるいは「隠された」)貯蔵庫と呼ばれている。そして、この「失われた貯蔵庫」の形成は固体地球の分化過程を知る重要な手掛かりとなることから、地球科学の大きな問題の一つとして扱われてきた。そのような中で、地球の(マントル+地殻)の岩石はほぼ等しい142Nd/144Ndを持ち、かつコンドライト隕石の142Nd/144Ndよりも大きくなることが近年報告された(Boyet & Carlson, 2005)。142Ndは消滅核種である146Sm(半減期6800万年、Kinoshita et al., 2012)の娘元素である。またSm、Ndはともに親石性であるが、NdのほうがSmよりも液相濃集性が高い。したがって、コンドライト的物質から誕生した地球が現在のようにコンドライトより高い142Nd/144Ndを持つには、親元素146Smが十分存在する初期地球でSm/Nd比の小さな液相が形成し、地球内外の何処かに孤立している必要がある。よって、この142Nd/144Ndの小さな「失われた(隠された)貯蔵庫」の形成は、初期地球におけるケイ酸塩分化過程に迫る鍵となる。

 これまで、様々な先行研究が142Nd/144Ndの小さな「失われた貯蔵庫」の形成についてシナリオを提案してきた(Boyet & Carlson, 2005; Lee et al., 2007; Labrosse et al., 2007; korenaga, 2009)。これらのシナリオは、142Nd/144Ndの小さな貯蔵庫がマントルの底まで沈降した後に孤立しているとする説と、マントル中を上昇し地殻を形成した後に宇宙空間に失われたとする説とで二つに大別されるが、決定的なものは現れていなかった。その理由のひとつとして、これらの先行研究は液相として形成した142Nd/144Ndの小さな貯蔵庫の微量元素組成に注目し、この液相のマントル中での浮沈を制約する「密度」については十分に議論してこなかったという点が挙げられる。液相の密度は、その主成分元素組成に依存する。したがって、「失われた貯蔵庫」の形成についてありうるモデルを提示するには、この貯蔵庫の主成分元素組成を知らねばならない。

 私はこれまでの研究で、同位体からの制約と高温高圧融解実験の手法を用い、現在の地球-コンドライト間の142Nd/144Ndの差を補填する貯蔵庫の主成分元素組成を決定し、その密度を求めた。得られた結果として、142Nd/144Ndの小さな貯蔵庫は太陽系形成から3000万年以内に7 GPaでの極微小部分融解度の液相として生成され、その組成はコマチアイト質となる。そしてその主成分元素組成から求めた貯蔵庫の密度は、未分化マントルの密度よりも小さくなる。したがって、この貯蔵庫はマントル中を上昇し、冥王代初期にコマチアイト質地殻を形成したと考えられる。現在、月を形成したとされる最後の巨大衝突の年代は太陽系形成から約1億年後と推定されており、142Nd/144Ndの小さなコマチアイト質地殻はこの最後の巨大衝突時に地球外に飛散し、「失われた」というモデルが提案できる。本講演ではこの「失われた貯蔵庫」の形成と、そこから探る冥王代初期の地球におけるケイ酸塩分化について紹介する。


Last-modified: 2015-07-02 (木) 15:26:27 (2300d)